最前線のプリント基板技術
通常、プリント基板というと緑の硬い板を想像しますが、研究の最前線では、その基板が溶ける・透けるといった新しい形へ進化しています。
ここでは、まだ実用化前のプロトタイプや研究中の基板を、簡単に紹介します。
1. 水で分離できるリサイクル基板「DissolvPCB」
水溶性の PVA(ポリビニルアルコール)を基材に、導体として液体金属 EGaIn(ガリウム+インジウム)を用いる アプローチ。
使用後は基板を水へ浸すだけで PVA が溶解し、導体と部品を分離・回収できます。
プロトタイピングや教育用途での循環設計を大きく前進させる可能性があります。
ポイント
- 材料回収率が非常に高いとの報告(PVA・EGaInとも高回収)。
- 3Dプリントで配線流路を作るため、立体的な形状にも適用しやすい。
- 長期耐久や高周波特性は今後の検証課題。
水に入れて放置する
1時間後↓↓↓↓↓↓↓↓
DissolvPCB Youtube動画より引用
引用元:
「DissolvPCB: Fully Recyclable 3D-Printed Electronics」arXiv -
https://arxiv.org/abs/2507.22193
「3D-Printed PCB Made With PVA and Liquid Metal Is Fully Recyclable」Tom’s Hardware -
記事URL
2. 見える回路:透明基板と“透明デバイス”の芽
ITO などの透明導電膜と透明樹脂を組み合わせ、光を通す「透明基板」を目指す試みが増えています。
実用プロダクトではありませんが、透明な携帯ゲーム機の基板を自作して動かしたケースが話題になりました。
透明化により、配線や発光が“見える体験”になる点が最大の魅力です。透明スマホ/透明ディスプレイといった アイデアの現実味も少しずつ高まっています。
ポイント
- 可視化・演出効果が高く、教育・展示・アートとの親和性が高い。
- 量産向けには機械強度・耐湿熱・組立歩留まりなど課題が残る。
@natalie_thenerd : Xより引用
引用元:
「Self-Taught Modder Builds Completely Transparent Game Boy Color Circuit Board」Tom’s Hardware -
記事URL
3. 平面を超える:切り紙(Kirigami)発想の“立体基板”
レーザーで入れたスリットを“折り・起こし”して立体化する「Kirigami Circuit」や、ファイバーレーザーで銅膜を高精度加工する「Fibercuit」など、基板を“形で機能させる”研究が進んでいます。
ウェアラブル、ソフトロボット、曲面デバイスなどで有効です。
ポイント
- 三次元配置により、同面積でも機能を積み増せる可能性。
- 曲げ疲労・応力集中・配線断線といった機械信頼性の設計がカギ。
Flexible and Kirigami Circuits with a Fiber Laser Engraver Youtube動画より引用
引用元:
「Fibercuit: Prototyping High-Resolution Flexible and Kirigami Circuits With a Fiber Laser」arXiv -
https://arxiv.org/abs/2208.08502
4. 体内で消える回路:トランジエント/バイオリソーバブルエレクトロニクス
一定期間だけ体内で機能し、その後自然に分解・吸収される「消える電子回路」が注目されています。
金属や半導体を生体適合素材(マグネシウム、シリコン酸化物、シルクタンパク質など)に置き換えることで、回収手術を不要にすることを目的としています。
医療用圧力センサーや神経刺激装置など、一時使用型デバイスとしての応用研究が進んでいます。
この「体内で消える電子回路」は、医療分野のみならず、自然環境で分解するIoTセンサーや一時的モニタリングデバイスなど、
環境負荷を減らす新しい方向性としても注目されています。
ポイント
- 体内で自然吸収されるため取り出し手術が不要で、患者負担を軽減。
- 短期使用デバイスで小型・柔軟設計が可能。生体に優しい低温材料で構成できる点も強み。
- 分解速度や生成物の安全性制御、信号の安定性維持、法規制や滅菌・保存方法の確立、量産化コストが今後の焦点。
引用元:
Bioresorbable Materials and Electronics - Chemical Reviews (2023)
Physically Transient Electronic Materials and Devices - Progress in Materials Science (2021)
5. まとめ
これからのプリント基板は、透明化・立体化・再利用などの新しい技術によって、より多機能で環境に配慮した方向へ進化しています。
まだ量産には課題があるものの、研究や試作の段階で着実に成果が出ており、近い将来には製品への応用が期待されています。