1.なぜ放熱が重要なのか
電子部品は電気エネルギーを熱に変換する性質を持ちます。
IC、パワートランジスタ、レギュレータ、LED、モータードライバなどは、
動作時に数ワット〜数十ワットの熱を発生します。
基板上でこの熱を効率よく逃がせないと、以下のような問題が起こります。
- 部品の温度上昇による寿命短縮(一般に10℃上昇で寿命半減)
- はんだ接合部の熱疲労・クラック発生
- 樹脂膨張による内部応力と層間剥離
- 電気特性の変化(抵抗値上昇・ノイズ増加)
- 周囲部品への熱影響による誤動作・暴走
放熱は単なる「冷却対策」ではなく、
信頼性設計の基本要素として位置づける必要があります。
2.FR-4基板の熱的特性を理解する
一般的なFR-4(ガラスエポキシ樹脂基板)は熱伝導率が低く、
おおよそ0.2〜0.4 W/m・K程度しかありません。
一方で、銅箔は約400 W/m・Kと1000倍以上の差があります。
このため、FR-4層を通して熱を下方向へ逃がすのは困難であり、
実際の放熱は銅箔(配線パターン)やビア構造に大きく依存します。
- 樹脂部は断熱体に近く、熱は銅箔面を伝って広がる
- 銅面積が広い部分(GNDプレーンなど)が自然な放熱経路になる
- 部品の取り付け面だけでなく、裏面にも銅を引くと効果的
つまり、「銅をどう配置するか」=「熱をどう流すか」という設計思想が重要です。
3.設計段階で行える放熱対策
高価な素材を使わずに、FR-4基板でできる放熱改善方法は次の通りです。
- @ 銅箔面積を広げる:熱を面全体に拡散させ、温度勾配を低減。
- A サーマルビアを設ける:発熱部品の下に複数のスルーホールを設けて熱を裏面へ逃がす。
- B GNDプレーンを活用:広いグランド層を「熱拡散プレーン」として併用。
- C 部品配置の工夫:発熱源を分散させ、空気の流れを遮らないようにする。
- D 放熱パッド・ヒートシンク:放熱パッド付きICやアルミ板への熱伝導も効果的。
また、これらを組み合わせることで、基板全体の温度上昇を5〜15℃抑制できるケースもあります。
4.実装段階での注意点
放熱性は設計だけでなく、実装条件によっても大きく左右されます。
代表的なポイントは以下の通りです。
- ランドとスルーホールのメッキ厚:薄いと熱抵抗が上がる。
- はんだペースト量の最適化:過剰・不足どちらでも放熱性が低下。
- メタルマスク設計:放熱パッド付きICの下に均一なはんだ層を形成することが重要。
- 部品間距離の確保:発熱源を近接配置しすぎると熱がこもる。
特にパワーICの「Exposed Pad」タイプは、リフロー時のはんだ量管理で放熱効率が大きく変化します。
5.放熱性を確認する測定方法
設計通りに熱が逃げているか確認するため、以下のような測定手法が使われます。
- サーモグラフィー観察:表面温度分布を可視化。
- 熱電対測定:部品底面・基板裏面の温度差を定量化。
- 赤外線カメラ解析:温度の経時変化やホットスポットを把握。
- 熱抵抗シミュレーション:CADモデルから数値的に熱拡散を評価。
特に試作段階では、実測とシミュレーションを併用し、
「どこに熱が集中しているか」を明確にすることが重要です。
6.放熱と信頼性の関係
熱の影響は、電子部品だけでなく基板自体にも及びます。
FR-4は有機材料であり、熱膨張係数(CTE)が銅と大きく異なるため、
繰り返し加熱されると層間剥離やスルーホール割れが発生しやすくなります。
また、熱ストレスによる絶縁層の劣化は、
長期的なリーク電流増加や絶縁破壊につながることもあります。
つまり、放熱設計は単に「温度を下げる」だけでなく、
基板そのものを守る信頼性設計でもあるのです。
7.まとめ
プリント基板の放熱は、特別な高機能素材を使わなくても、
設計・実装・評価の工夫で大きく改善できます。
銅面積を意識したパターン設計、サーマルビアの適正配置、
部品配置の最適化、温度測定によるフィードバック――
こうした基本動作を丁寧に行うことが、最終製品の信頼性を高めます。
放熱設計は「見えない品質」の代表的要素です。
一般的なFR-4基板であっても、熱を意識した設計を行うことで、
より安定した、長寿命な電子機器を実現することができます。